上司だった部長に辞意を伝えた後、淡々と事務仕事だけ進んでいって、どんどん引き継ぎをして、辞める当日には机の上に何もなく。
ただ、一日、ぼうっとして過ごした。
定時になり、忙しそうにしている同僚に挨拶し、上司に挨拶し、退勤。
それだけだった。
10年間勤めた会社の最後の日、僕は疎外感と、虚しさを感じていた。
会社を辞めるきっかけは、子供を授かったこと。
妻の妊娠が分かってから、二人で話を重ねて、どんな環境で生活するか、どうやって育てるか、いろいろ考えた。
当時、僕たち夫婦は共働きで、二人とも社員で、ある程度収入があった。
でも、両親は、2人とも近くにいない。
核家族なので、2人だけで子供を育てるのには無理があった。
まず、僕が会社に育休を打診してみた。
あっさり、何を言ってるの?と、返された。
18年前の話。今は環境が違うのだろうが、当時はそんな対応が一般的だった。
そして、仕事に忙殺され始めていた僕は、突然会社で倒れた。意識不明で。
そのまま、救急車で病院に運ばれて、気づいたらベッドで横になっていた。
涙ながらに僕の手を取る身重の妻、その時、会社を辞めようと二人で決めた。
でも、中国専門商社で10年近く働き、退職したら、何もなく。
出来るのは、中国語と、貿易事務の知識。
これから、どうやっていこうかと、途方に暮れた。